ソニーはどうして成功したか 峠野尭 (Taono Takashi)

2014年、ソニーは「VAIO」を展開するPC事業を投資ファンド、日本産業パートナーズが設立する新会社に事業譲渡し、ソニーが販売するVAIOとしては、2014年春モデルを最後に撤退した。
僕が愛用しているVAIO君にはSONYの文字が刻まれているけど、
今後はSONY、VAIOの新作を見ることはできなくなる。
友人の一人はSONYに勤めているが、転職できるなら転職したいと笑いながらこぼしていた。
SONYほどの一流企業をでて、エレクトロニクス産業でどこに行こうというのだろう。
中国、韓国に優秀な人材が流出し、ますます日本のエレクトロニクス産業が苦境に立たされる未来が想像される。
SONY凋落論が出て久しい。
どうしてSONYは経営に行き詰ってしまったのか、いろいろな議論が交わされている。
しかし、結局のところは大企業病に犯されて、創業時の理想をトップに座って胡坐をかいているおじさん達が失ってしまったからだろうと僕は考える。
「SONY」の4文字こそ最大の財産という幹部がいたらしい。
技術による挑戦こそがSONYのアイデンティティではなかったか。
こんなとき、昔読んだ「ソニーはどうして成功したか」を引っ張りだしてページを繰ってみた。
著者はソニー元広報部長 峠野尭さん
1935年山口県生まれ。新聞記者時代に大蔵省、通産相、経済団体連合会などを担当。
1973年、盛田昭夫氏の招聘を受け、ソニーへ入社。
27年間のあいだ井深大、盛田昭夫両氏の側近として公私にわたり深く関わってきたらしい。
この本は、ソニー創業者の井深大、盛田昭夫氏の人物像に焦点を当て、ソニーの成長と合わせて紹介したソニーの歴史書だ。
本書に書いてあったことばをいくつか引用したい。
井深氏「新しい技術によって広く人々の役に立つ仕事をしたい」
井深氏「ベンチャーを目指す企業には技術や資金よりも思想が必要だ」
井深氏「よその真似はしない、よそのできないことをやろう」
井深氏「ソニーが物作りを忘れたらソニーとしての役割はなくなる」
井深氏「お金だけのやり取りが、お金を生むというのは健全ではない、それは虚業だ」
盛田氏「当社はエレクトロニクスの分野で役に立つ新しい商品を世の中に提供していくのが使命である」
これこそソニーが思い出すべき重要な心ではないだろうか。
お金儲けは企業であれば当然重要、お金にならないものは切り捨てることも時には必要かもしれない。
だけど、一番大切なものを切り離してしまえば、ソニーはソニーでなくなってしまう。
この本では、経営学、経済学的にもいくつか面白い考えが述べられていたので、ここに書きとどめておく。
盛田氏「どんな商品にもマーケットがあるが、新しい商品というものは、だれもその機能や便利さを知らないわけだから、人々にそのことを十分知らさなければマーケットにはならない。つまりマーケットはいつでもそこにあるものではなく、啓蒙活動や場合によっては教育などを通じて育て作っていかなければならない。マーケット・クリエーション、マーケットは開拓するものである」
時に経営学では、過去のデータを用いて市場の潜在性を調査し、意思決定を下す。
しかし、盛田氏は新しいビジネスにマーケット調査など何の意味もないという。
確かにそのとおり、まだ世に存在しないものを予測することには限界がある。
事業計画ばかり引いてビジネスをすることばかりが正しいことではない。
むしろ、そうした型にはまった経営はイノベーションを衰退させてしまう。
事業の成功には、経済性を忘れることもある部分で必要なのだ。
盛田氏「この狭い日本のマーケットですら多くの企業が参加した方が活性化する。自由競争とはまさに多くの企業が参加してこそマーケットは拡大するのだ。一企業が独占的な活動をするだけでは限界がある。それに競争があれば常に、他社に劣らないより良いものを開発していくエネルギーにもなる。新しいものを作っていく東通工としては望むところだ」
古典経済学では、価格を縦軸、生産量を横軸とするグラフに右上がりの需要曲線と右下がりの供給曲線があって、それが交わるところで価格が決定するとされる。
参加企業が増えて供給量が増えれば供給曲線が下に移動し、価格が下がってしまうと考える。
しかし、実体は、たくさんの企業が参加することで商品の認知度も向上し、需要曲線が上に移動することになる。
これは面白い考え方だ。
つまり、マーケット誕生時点では競争企業は敵ではなくて、味方なのだ。
また井深さんはこんなことも言っている。
「ニーズだけを見ていたのでは革新を生む動機は出てこない。たわいない夢を大切にすることからも、革新は生まれる。ポケットラジオやウォークマンがそうだ」
ともすれば、僕たちはニーズ、ニーズ、ニーズと、ニーズという言葉を使いがちだ。
経済学の需要(ニーズ)曲線に始まり、ニーズが物を売る上で重要であると、考えがち。
しかし、世の中、満たされていないニーズなど本当に存在するだろうか。
もう、社会は十分に便利になって、今現状でも人はほとんど不自由なく生活することができる。
もはや人間に、生きるうえで不可欠な満たされていないニーズなど存在していないのではないだろうか。
世の中はニーズなんかでできていないのではないか。
今はワクワクするもの、夢、お洒落、話題性、楽しみ、そういうものにお金が支払われる時代ではないだろうか。
ビジネスもニーズなんか話して経営できる時代ではない。
それに井深さんは昔から気づいていたのかもしれない。
最後に、日本人は物まねが上手だけど、発明、革新を生み出すのは苦手というよく言われる言説に対する井深さんの言葉
「日本では発明の価値を非常に高くみる傾向がある。発明は単に発明にとどまる。発明のウェートを1とすると、それが使えるか使えないかの見極めが10、企業化するには100のウェートがある」
かつてソニーは戦後に生まれたベンチャー企業だった。
大企業と戦って、勝ち続け、そしてソニー自身も大企業となった。
その精神は起業を夢見る人たちにとって学ぶところが大いにある。
それはたぶん、ソニーに働いている人たちにとっても。

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