部下を壊す上司たち 職場のモラルハラスメント 金子雅臣(Kaneko Masaomi)

現代の中小企業では10人に1人が自殺を考えたことがあるらしい。
パワハラという言葉が使われだして、もうずいぶんと経つ。
ブラック企業なんて言葉もでてきて、職場環境への関心も随分高まってきた。
職場は人生の大半を過ごす場所。
職場は人が社会の中で一定の役割を担い、自己実現していくための舞台だ。
本来は、生き生きできて、楽しくて、充実感を得ることができる場であるべきだ。
そんな場所で、人間関係が問題となり苦しんでいる人たちがいるのは悲劇としか言いようがない。
僕もかつて上司との関係で苦しんだことがある。
その人の怒鳴り声を聞いただけで、脇汗が噴き出た。
一つの報告をするだけなのに、めちゃくちゃ緊張して、心臓がバクバクした。
どうしてあんなに恐怖し、ストレスを感じていたんだろうと今になって思うけど、
当時の僕にはそんな余裕はなかった。
今、部下と仕事をする中で、どうしたら彼にやりがいを持って働いてもらえるか、
楽しく働いてもらえるか、理想的な関係を日々模索している。
一言でいえば、健全な信頼関係をつくること。
言うは易し、行うは難し。
どうして、今、皆がストレスを抱えて生きているのか。
それはきっと、人間関係が希薄化してしまい、企業が無機質に実利を追い求める社会になってしまったからに違いない。
そんな冷酷さ、他人の人生への無関心が職場にも蔓延しているのだ。
会社も組織も、人がつくるものであり、人のために存在している。人が楽しく生きるための仕組みが人を損なうことの矛盾。
ばかばかしい。
この本は、パワハラの実態や職場の問題について実例を挙げながら、対処法も紹介している。
著者の金子雅臣さんは1943年生まれ。
東京都勤務で長年にわたり労働相談の仕事に従事する一方、社会派ルポライターとして活躍。
セクハラ問題では第一人者として講演活動などに取り組んでいる。
また日本ではじめてホームレスという言葉で社会問題を提起し、精力的なルポで実情を紹介した。
最近ではパワーハラスメントを職場の新たな問題として取りあげ、警鐘を鳴らしている。
著者によれば「職場いじめ」には以下のパターンがあるらしい。
①リストラ型 例:経理で採用されたのに、庶務業務もさせられ不適格で解雇に
②労働強化型 例:関連会社への転職予定がばれて、妨害されて解雇に
③能力主義型 例:理由もなく評定を下げられ、「自分の胸に聞け」と言われた
④さざ波型 例:同僚とのトラブルで、周囲は相手の言い分しか聞かない、ワンマン社長に嫌われる
⑤人間関係型 例:派遣先で、派遣仲間の仲の良いことがとがめられて
⑥セクハラ型 例:「夜の仕事をしている」とうわさされて
昔はこんなのなんでもなかったのに、今の若いやつらは軟弱だ、
よくこんな話を聞く。
僕も不思議に思う。
そうしたことを言うおっさんは、若い頃、バカやろう、このやろう、死ね、辞めろ
こんな人間としての尊厳を蹂躙されるような言葉を受けても元気に働いていたらしい。
どうして、そんな暴言を吐かれても、心身の健康を保ちながら仕事ができたのだろう。
本当に現代の若者は弱く軟弱になってしまったのだろうか。
その違いは何なのか。
著者は、当時はそんなことを言いながら、大して切羽詰って無かったからだと説く。
個人個人の性格、年代のギャップというよりも、時代背景の変化が、上司と部下から余裕を奪ってしまった。
そこには相手を思いやるだけのゆとりもなければ、ミスを許す寛容さも失われている。
昔は、まだ余裕があって、ひどい叱責も叱咤激励と理解できた。しかし今は、仕事が増え、スピードが増し、
ミスを許せない職場環境で、お互いにそうした余裕を失った。だから同じ言葉も受け取り方が変わってしまったのだ。
キレて激昂し、ひどい言葉を言う人はどこにでもいる。
そういう人をみるとうんざりするし、全く尊敬の感情なんか吹き飛んでしまう。
黙って怒られながら、部下は、こいつはなんて幼稚で子供なんだろうと思っているものだ。
そこには信頼関係なんてものは、これっぽっちもない。
テクニックに過ぎないけれど、キレて前後を考えず叱責してしまった時の対処法が紹介されていた。
「もっと頑張れよ、お前には期待しているんだから」と最後に取ってつけたように加えること。
それが本心から出たものでなくても、確かに、当事者としての経験から、この言葉はお互いを救うチカラがあると思う。
だけど、そんな薄っぺらいテクニックに頼るんでなく、
日ごろから周りの人を大切にし、信頼関係を築くことが一番なのは言われるまでもない。
人の上に立ち、誰からも信頼される尊敬すべき上司は、すべからく人を大切にしている。
皆が人を大切にして生きていれば、パワハラなんか起きるはずがない。
自分が何のために生きているのか見失っている、
根本的な人間性の未熟さがパワハラ問題を引き起こしているのは間違いない。
人の振り見て我が振り直せじゃないけど、日々、そんな糞上司を反面教師にして、
自分自身を顧みながら生きていきたいと改めて思う。

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