リクルートという幻想 常見陽平(つなみようへい)

常見陽平は評論家・人材コンサルタント。1974年生まれ。北海道出身。
一橋大学商学部卒。同大学院社会学研究科修士課程修了。
新卒でリクルート入社。玩具メーカーに転じ、新卒採用を担当。
その後、コンサルティング会社を経てフリーに。
千葉商科大学などで非常勤講師を務め、2015年4月に新設される同大学国際教養学部の専任講師に就任予定。
これほど出すのに、緊張した本はない。と著者は言っている。
先輩、同期、後輩との信頼関係が壊れるかもしれないし、訴訟のリスクもある。
リクルートの経営陣と刺し違えるくらいの勢いで、この本を書き上げた。
主張するとはそういうことなのだ。
こちらは、命をかけている。
そこまで言っているのに、書かれているのは、もう10年も前の古いリクルートでの経験を頼りにした、
何を言いたいのかよくわからない、ネチネチとした会社批判だ。
単なるリクルートの風土、その内実の偏見を伴った紹介文でしかない。
主張する、というほどの明確な意見やビジョンもない。
強いて挙げるとするなら、上場するからといって、生活者志向、顧客志向を忘れちゃだめだよ。ということか。
リクルートは上場した。今後は株主の期待に応えていかなければならない。
グローバル化、IT化、人材の強化、M&Aなど、現社長峰岸氏の口から語られるのは、
どこの会社でも言っているような、いわばもうありふれた自分目線のことばかりに思える。
そうではなく、リクルートとしてどう世界を変えていきたいか、どうありたいか、ビジョンを示せ、と。
顧客、生活者の期待に応えるよう努力することなど、リクルートならわかりきっていることだ。
そうやって営業し、受注し、利益を上げてきたのだから。
主張するというくらいなら、具体的施策の一つや二つでも言ったらどうか。
命をかけたわりには、社内の文化、風土のことばかり気にして、肝心のビジネスに関する調査が不十分。
というかあまりそういうことには興味がないらしい。
分析もなく、拠り所としているのは自分の古い経験と、周囲のうわさ話、リクルート関連書籍、リクルート社の社内報くらいのもの。極めて内向きで、自分自身の思ったことを、とりとめなくつらつら書いているに過ぎない。
正直、一読者としては他社の社内状況なんて大した興味もないし、価値もない。
辞めてもうずっと経つのに、リクルートの一挙手一投足が気になって、
OBとして何か言いたくてしょうがない、とくに言うこともないけれど。
という一人のおっさんが書いた本がこの本である。
一方で、紹介されているリクルート文化は、確かに僕が聞いているリクルート像と一致するところもあるので、
この辺を適当にまとめとく。
①リクルートは起業家を多数輩出している。
リクルートに入ると起業のために必要な人脈、金脈、情報が手に入り易い。
まず人脈では、リクルートに関係した人たちが作る、コミュニティのようなものがある。
金脈として、高賃金、高退職金なんかを期待できる。
ビジネスチャンスとしての情報も社内のその辺に転がっている。
②リクルート社員は会社を辞めることを「卒業」という。
こういう言葉を他に使う例で僕がしっているのは、マッキンゼー、AKB48、モー娘くらいだ。
卒業するためにはふつうは単位を取らなくてはならない。何をもって卒業というのか。
中退が大半ではないか。この批判は的を射ているが、そんな体系化されたノウハウがリクルートにあるのかは疑問だ。
③ヨミ表
予算に加えて、ヨミという営業状況、商談を管理する表があるらしい。
受注確率をA、B、Cなどでランク分けする。
「私にとっては、気合いのAヨミです」といった使い方をして、
常に目標と現状、その間をつなぐ道筋を管理しているらしい。
④強い営業力
個人が強いというより、営業のシステム作り、戦略を実行させるマネジメント力が強い。
営業マン個々はただ、決められた方針に従って動く兵隊である。
⑤モチベーションアップにただならぬ力を注いでいる。
武勇伝、青臭い労働ポエム、みんなで大騒ぎして盛り上がるのが大好き。
著者は社員を躍らせる言葉で情熱的に働かせてても、結局会社の利益のためだろと批判しているが、
そんなもん会社なんだから当たり前である。
⑥実はそんなに新規事業がない
「江副モデル」といわれる情報の非対称性に注目した、生活者と企業をつなげるビジネスモデル。
基本はこの型であり、それをいろんな業界に適用する焼き直しビジネスが結構多い。
リクルートが面白いのは、もうれっきとした大企業なのに、自ら頑張ってベンチャー精神を残そうとしていることだ。
矛盾しているかに見える側面をうまく共存させて、日本にない独自の企業文化を作っている。
大企業としての安定と、ベンチャーらしい挑戦の風土だ。
それなりの安定や社会的ステータスは欲しいけど、挑戦する生き方がしたい。
こんな中途半端な人に響く。(基本的に人は正規分布の中途半端ということを忘れちゃいけない)
いくら批判したところで、このモデルが成功していることは疑いの余地がないし、
つまんなくて堅苦しい日本の会社に比べたら、ずっとイキイキしていて楽しそうだ。
だからこそ、リクルートは世間から魅力的に見えるんだろう。
「リクルートという幻想」終わる。
とか、最後に著者は書いているけど、そんな幻想そもそも誰も持ってないし、そこまで一企業に興味はない。
ああだこうだ行っている人間の大半はリクルートOBだ。なんとなく、サークルのノリがする。
こういうのもこの会社の楽しさの一つなのかもしれない。

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

スポンサーリンク