この本はわりと面白い。言いたいことは明快。ようは、2つ。
海外とやりあっていく現代のビジネスマンたるもの、世界史の理解は不可欠であること。
そして、現在の世界史は西洋によって作られた西洋視点のものである。偏らない視点で世界を眺めよ。
しかし気になったことも2つある。
、、と思う。、、という気がする。が多すぎ
世界史について話しているのに著者が断言してくれないで、と思うよ、そんな気がするよ、
という結びで締められてしまうと、読んでいる内容の信憑性に不安を覚える。
この本の準備のために読んだ本は一冊もありません。
著者はそう断言し、参考文献を示していない。内容は出口さんが半世紀の間に見たり聞いたり読んだりして、自分で咀嚼して腹落ちしたことだという。でも出口さんが歴史を作ったわけじゃない。歴史とはすべて何かを参照して明らかになるものではないのか。出口を信じられないとこの本も信じられない。
では著者、出口治明とはどういう人か
1948年、三重県生まれ。京都大学法学部卒業。1972年、日本生命保険相互会社入社。ずっと保険畑を生きて2005年に退社。大学で講師を務めたのち、ライフネット生命保険株式を立ち上げて、会長兼CEOとなる。訪問都市は1000を超え(これって数えるかね?)、読んだ歴史書は5000冊(これも数えるかね?)以上。とのこと。
5000冊読んでいたのなら、まあこの人のいうことはまともかもしれない、という気はする。
取り上げられた歴史の題材はさまざまで以下のようなトピックについて語られている。
1.世界史から日本史だけを切り出せるだろうか
ーペリーが日本に来た本当の目的はなんだろうか?
ペリーが来たのはクジラのためではなく、大英帝国に勝つために太平洋航路で中国と、茶、絹、陶磁器などの直接交易をしたかったから。
開国によって決められた為替レートの金銀交換比率が、欧米の15対1に対し、日本では4.65対1であった。このため大量の銀が流入し、金が流出した。金本位制の国では、金がなくなると貧しくなる。このため、江戸幕府は弱体化して、新政府軍に負けたのだという見方もできる。
2.歴史は、なぜ中国で発達したのか
ー始皇帝が完成させた文書行政、孟子の革命思想
3.神は、なぜ生まれたのか。なぜ宗教はできたのか
ーキリスト教と仏教はいかにして誕生したのか
キリスト教がローマにやってきたとき、ローマ市民が信仰する宗教が2つあった。
ペルシアから来たミトラス教という太陽神を崇めるもの。ミトラスは冬至に生まれ、夏至に最強になり、冬至に死ぬ。
エジプトからきたイシスという女神が主役のイシス教。子のホルスを膝にのせた像が人気。
イエスの誕生日を冬至の頃にして、牛を殺して肉を食べる儀式の代わりに、パンと葡萄酒のミサをやり、幼子イエスを抱いた聖母マリア像を作った。クリスマスが12月25日になったのは4世紀だとのこと。イエスがいつ生まれたのかはもちろん不明。
4.中国を理解する四つの鍵
ー難解で大きな隣国を誤解なく知るために
1つ。中華思想。中国(周)ってすごいという考え方
2つ。諸子百家。法家は霞が関、儒家はアジテーション、墨家は平和デモ、知識人は道家。
3つ。遊牧民と農耕民の対立と吸収
4つ。秦の始皇帝のグランドデザイン。文書行政、車の車軸を統一。
5.キリスト教とローマ教会、ローマ教皇について
ー成り立ちと特徴を考えるとヨーロッパが見えてくる
キリスト教にも色々ある。
ローマ教会の特徴。
1つ。たくさんあるうちのワンオブゼム。
2つ。ピピンの寄進により領土をもってしまった教会。
3つ。豊かな資金と情報をもっている。
6.ドイツ、フランス、イングランド
ー三国は一緒に考えるとよくわかる
7.交易の重要性
ー地中海、ロンドン、ハンザ同盟、天才クビライ
東から西へのルート
1つ。北の草原の道。モンゴル高原、ロシア大草原、ハンガリー大平原を馬で掛けていく遊牧民の道。
2つ。シルクロード。砂漠を横切っていくオアシスの道。
3つ。海の道。
このうち一番交易量が多かったのは海の道、一番少なかったのはシルクロード。
8.中央ユーラシアを駆け抜けたトゥルクマン
ーヨーロッパが生まれる前の大活劇
9. アメリカとフランスの特異性
ー人工国家と保守と革新
10.アヘン戦争
ー東洋の没落と西洋の勃興の分水嶺
アヘン戦争(1800年代)で、中国のGDPシェアは世界最大の32.9%から17.1%に落ちた。アンガス・マディソン。今、中国は昔に戻ろうとしているだけ。
19世紀のヨーロッパ人がつくりあげた西洋史観、理想的的な歴史像が現在の世界史のベースとなっている。
出口さんは言っている。
子会社への出向を命じられても、自分が不運だとは思わなかった、と。
歴史を見ると、自分の好きな仕事をやって順調に出世するなんて奇跡に近いことです。昇進人事で破れたり、左遷されたりすることが、むしろ日常茶飯事。しかもそれらは、多くの場合、自分の意欲や能力に関係なく、王様(上司)のめぐり合わせや仕事上の思いがけないトラブルに起因します。人生は青写真どおりにはいかない、運や偶然に振り回されて当然。
この言葉は非常に力強い言葉だと思う。
歴史を振り返ると、国や共同体のピークは20〜30年であったと出口さんは言っている。
どんな素晴らしい国のピークも長くは続かない。
変わりゆく世界で一個人はどう強かに生きていけばよいか。
楽しく、やりがいを持って生きていくことができるか。
世界はおもしろい。
仕事に効く教養としての「世界史」 [ 出口治明 ]
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