この小説の登場人物は心に問題を抱えている。
最近、平穏無事に暮らし、心穏やかな僕にはそのことが強烈であった。
色々壊れている。
それは、登場人物たちの人生、人格。
独特な風景描写。
物語の構成。
ストーリーの展開。
色々壊れている。
「家族シネマ」は、1997年 芥川賞を受賞した。
柳美里さんは1968年生まれ。現在50歳くらい。
在日韓国人であるという。
「家族シネマ」は、
家族を演じる家族の物語であった。
映画に撮るから、ということで集まった家族の話であった。
主人公は、仕事で知り合ったお爺さんの家に転がり込み、お尻の写真を撮らせることに快感を覚える。
銭湯で少女の裸を見て、その感触に想像をめぐらせる。
そこには、明確な物語はない。
あるのは設定。
展開は少しばかり。
登場人物の感情。思考。
物語の中で、それは少し変化して、そして通り過ぎていく。
でも、僕には掴み取り切れない。
それは事細かに語り尽くされることを求めていない。
確かに自分も経験したことがある、という感覚。
それを言葉にできないまま、小説は終わる。
「真夏」
不倫する男との生活を三年続けた女性が、その生活に別れを告げる短い話。
「潮合い」
小学六年生の転校生がやってきて、クラスのリーダー的女子が自身の立場に不安を抱きイジメを行う物語。
転校生は筆者なのかもしれない。在日韓国人である。女子の干渉をただ素直に、静かに受け入れていた。
その中で、女子の心は穏やかではなかった。
迸るほどの激情。
制御できない感情の起伏。
不安と安心の間を、些細なことで揺れ動く脆い心。
何も持たない弱い存在。
確かに僕にもあった。そういう時代。