しんせかい 山下澄人

この小説。シロウトっぽい。
でも、それはわざとなのかもしれない。
なぜなら芥川賞取ってるらしいから。
そう聞くと何か良いところをみつけなきゃいけない、という強迫を感じる。

読んだ感想。
主人公が、昔の記憶を思い出して、断片的に語った物語。

そもそも、自分に向けて語っているから、読者のことなんか考えていない。
話や視点はしばしば、どっかに飛んでまとまりがない。まるで記憶をたどるよう。

誰が何を言っているかもおぼつかない。
そもそも登場人物が不必要に多くて覚えられない。
多くは個性すら語られない。
突然話の中にでてきて語ったりする。その後、べつに特に何かがあるわけでもなく。
でも現実ってそんなものなのかもしれない。
現実って人がいっぱい。登場人物がいっぱい。その大抵は自分の人生には対して意味がない。
でもそれぞれには名前がある。

主人公の視点は冷ややかだ。
まるでどこかからか自分を眺めているよう。
それがもどかしい。もっと入りたい。中に入りたい。でも入り込めていない感じ。
どこかで躊躇っている感じ。
いいね。僕もそういう頃があった。今でもそうかもしれない。
ようはカッコつけてるだけなんだが。
それをどこか後悔している。今の自分は後悔している。

その時、その場所、貴重な二年間。若かりし時の懐かしい思い出。
その思い出も、もうぼんやり曖昧になっている。それが少し切ない。
あの時の僕。少し愛おしい。

ある北海道の田舎に塾があった。
偶然があってそこに行くことになった。
そこには沢山の若者たちと先生がいた。
共同生活場を自分たちで作りながら、農作業もして、暮らす。
その中で先生から授業を受けて、俳優や脚本家をめざす。
そういう場所があった。

その場所は既に閉鎖されている。

全てがフィクションで、計算の上にこういう物語が作られたなら、それはすごいこと。

でも、作者と主人公の名前は同じで。
本当にそういう塾は昔存在してて、作者はそこで生活してて、
その塾はもう閉鎖されてて、
作者は役者や脚本家をしている人。

だからこれは、なんていうか小説でなくて、ノンフィクション。
だけどノンフィクションにすると生生しすぎるし、好きに語れなくなるから、小説みたいな感じになった。
でもほとんどノンフィクション。

そういう小説。

小説にできるような2年間があるっていうのは、それだけで価値があったと思う。

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