US – David Nicholls

「One Day」を書いたDavid Nichollsの新しい小説「US」
息子Albieが高校を卒業し、大学へ進学、家を出て暮らすことになった。
そんなある日の夜、夫Douglasは20年近く連れ添った妻Connieに離婚したいと告げられる。
三人での生活の最後、息子が巣立つ前に、家族全員で1か月ヨーロッパ周遊旅行を提案したConnie。
Douglasは乗り気ではなかったものの、この旅行で妻の気持ちを変えさせると決意し、一生懸命手配し旅行に出発した。
The Grand Tourの旅のルートはパリから始まり、アムステルダムへ。
道中は、父を軽蔑し、つねに冷たい反応しかしないAlbieと、Albieの側につくConnie、
必至で会話を盛り上げようとするもジョークはことごとく空回りし、
発する言葉は常に二人を幻滅させるDouglasの間の溝が浮き彫りになっていく。
アムステルダムのホテルで隣のテーブルに居合わせた武器商人たちにAlbieが喧嘩を売った時、
Douglasが相手の肩を持ったことがきっかけで、なんとか繋いでいた旅行も終わり。
Albieはメモを書き残して一人で出てしまう。
Douglasは一人、Albieを探すために旅を続け、
痕跡を頼りにミュンヘン、ベネチア、フィレンツェ、シエナと移動していく。
回想の中で、DouglasとConnie、Albieの間の確執の原因が浮き彫りになっていく。
Douglasはいわば正しいレールを進んだ人だった。
努力をして、生化学研究者となり、専門知識を身に着けて、正当な報酬を得ることを人生の成功だと考えていた。
人間が知を積みかさねて築き上げた科学は、芸術のような曖昧なものより崇高だと信じて疑わない。
一方のConnieは、芸術を愛し、レールに縛られない自由な人だった。
何が正しいかとか、どれが安心かとかは重要でなく、自分自身のやりたいことをし、
自由に生きることに価値を置く人だった。
そんな違いもはじめは魅力の一つで、何より科学に情熱を燃やすDouglasはConnieにとっても魅力的にみえた、
しかし、家庭に入り妻となり自分の人生を結果的に犠牲にすることとなったConnieと、
家庭を守るために志を曲げ、給料の高く、安定した職についたDouglasの間の結婚生活は、
子供が成長した今となってはConnieを縛るものになりはじめていた。
Douglasは紆余曲折あり、マドリードのプラド美術館でついにAlbieとの再会を実現。
親子が初めてまともに顔を向き合わせた会話で、
Albieは常にDoulasが自分のことを劣等生と軽蔑していると感じていたと心の内を打ち明ける。
必至で科学や学問を教育してAlbieを正しい大人に育てようと躍起になる父と、
正しいレールに自分の才能も興味も見いだせず、枠にはめようとする父に対する息子の抵抗が、
二人の心を引き離していたことがわかってくる。
そして、休戦協定。二人でバルセロナに旅行するDouglasとAlbie。
お互いを少しだけ理解し、思いやることを覚え始めた父と子。
その矢先に、心臓発作になるDouglas。
死に直面した家族がまた一つになり、バルセロナでつかの間の三人の生活を手に入れる。
但し、それはつかの間の休みにすぎず、
イギリスに帰ってもとの生活に戻ったDouglasとConnieは別居を始めることになる。
Connieは昔の恋人だった芸術家のAngeloと再び関係を持つようになる。
一人取り残されたDouglasの前にはまだ長い人生が続いている。
全てが空っぽになった家で、Douglasはふとベネチアで出会った女性のことを思い出す。
そして、インターネットに彼女の名前を打ち込むのだった、
Douglasの世俗的なところ、常識的で、いつもお金を気にしているところ。
ConnieやAlbie、彼らが好む芸術が理解できず、悩むところ。
だけど、その理解は常に論理や筋道、理性に裏付けされていて、画を見ても意味を考えてしまうところ。
凝り固まった考えだと自覚していても捨てきれない。
Douglasの葛藤は男の誰もが抱く思いで、共感しつつ、
わが身を振り返り、自分はそうあってはならないと反省させられる。
Connieは対象的。
何が正しいか、何が正しくないかはさして重要でない。
そもそも正しいとはどういうことだろうか?
どう感じるか。どう楽しむか。
本質的に重要なのは何が自分の中で大切なのかだと考えている。
この本を読んで、少し空恐ろしくなった。
結婚とは何なのだろう。
家庭をもつこととは?
自分を捨てること?
愛する人達のために自分の人生を犠牲にすること?
だとしたら結婚生活というのは、長くなってしまった人の人生には厳しすぎる。
それが子供を産み、育てるための共同作業だとしたら、
その後にそれぞれが別々の人生を歩み始めるのはなんら不思議なことではない。
DouglasとConnieの人生は決して他人事ではない。
価値観が違う二人が一緒になった時、
始めはその価値観の違いが尊いものに感じるだろう。
だけど人は本質的には変わらない。
確固たる自己を持った人は、何歳になってもその人のまま。
ただ、心の奥底でくすぶっているだけ。
その火が消えずに残っていた人と、消してしまった人。
火を残していた人は、また自由に燃え上がらせればいい。
だけど、消してしまった人の人生はどうなるのだろう?
犠牲にした対象が失われてしまったあと、その人に残る人生は?
行動範囲の広がった今の時代。
自分の人生を望む二人の男女が、ずっと一緒に生きて生涯を遂げることは、
難しくなっていると感じる。
結婚は死ぬまで続くものという考え方自体が、古いものになっていると感じる。
そして、大切なのは、自分とは何なのか、何をして生きていくつもりなのか、
ということを誰もがしっかり持っていなければいけないということ。
それは、親として子供に見せなければならない責任であるし、
子供が自由に自分の人生を選べるよう助けてあげることも親の責任。
親にも人生があり、生き方があり、尊重してあげなければならないことを知るのは、
子供が乗り越えなければならない新しい壁。
一つ話の流れで気になったことは、マドリードでの父との再会を経て、Albieがやけにすぐ心変わりをしたこと。
積み上げてきた不満の量に比べて、あまりにもあっさりしすぎじゃない。
Albieにもいろいろ思うところはあったんだろうけど、
その部分がしっかり描写されていないので、若干話を纏めようと強引に進めた印象を受けた。
David Nichollsの小説は変わらず筆致にユーモアがちりばめられていて、
読んでいて温かい気持ちになります。
長期旅行という題材もいい。
世界は小さくなっている、どこにいっても同じようなものがあり、
インターネットに接続しちゃえば今までどおりの情報も手に入る。
異なる価値観、文化、異世界を探そうとすると、どこにも見つからず結構苦労することが現代。
でも、実は隣にいる人は一番の異星人だったりする。
素晴らしい景色、有名な芸術作品、憧れの土地を見ても、その感動は長続きしないなんてところも
ちゃんと描写されている。
きっと作者もヨーロッパ周遊旅行のような長期旅行に出かけたことがあり、
その名前の響きのすばらしさに比して、現実はどこに行っても大して変わらず、さしてそうでもなかったと感じたことでしょう。

Us [ David Nicholls ]

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