ペンギンハイウェイ 森見登美彦

子供のころ、世界は混沌だった。
世界は知らないことだらけで驚きで満ちていた。
世の中がどういう仕組みでできているのか。
自分はなぜここにいるのか。
他人は何を考えているのか。
僕にとって、僕が世界の中心だった。
僕が死ねば、世界は終わると思っていた。
お風呂をかき混ぜる棒を、湯船に突っ込んで手を放すと水の外に飛び出してくる。
その理論がわからなくて、悩んだことを今でもまだ覚えている。
いつからか、当たり前が増えてきて、
世の中の全てを、自分の当たり前の枠組みの中にひとつづつはめ込むようになった。
あれはああいうこと。これはこういうこと。それはそういうこと。
そうして驚きが減っていった。
感動も薄くなっていった。
世界を自分の価値観とか考え方、認識の中に整理していく作業は、
世界をつまらなくした。
そうして凝り固まってしまった世界を壊すことはもうたぶんできない。
とても寂しいこと。
でもそうしなきゃ、あまりにも世界は複雑すぎるんだと思う。
まともに生きていく、そのせいで生きることの輝きを失ってしまうのは悲しいこと。
この物語の主人公は4年生。
かれは自分の周りの世界を研究している。
そこには当たり前とか常識とかなくて、すべてが不思議と驚きと感動に満ちている。
そんな頃が僕にもあった。
きっと誰にでもあった。
そんなことを思い出させてくれる本。

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