ワーキングプア 日本を蝕む病 NHKスペシャル

2007年6月11日発行。
貧困層とは発展途上国にいるだけではない。
先進国にも出没する。
社会の変化が激しくて、資本主義が跋扈する世界では、経済的格差が発生。
その競争社会の中で取り残された人達を政府の社会保障が救うことができないと、たちまち貧困層が生まれる。
日本は既得権益に縛られ、社会保障に偏りがある。
その歪んだ構造では、網に引っかからず落ちる人がでてくる。
どんなに理想に近い社会でも一定の割合は避けがたいのだろうけど、
ワーキングプアという問題は10年近く前から話題になっていた。
今はどうなのだろうか?
多少、社会は改善の兆しがあるのだろうか?
本書は言う。
弱者は見えない。
今でも厳しい生活をしている人は沢山いるはず。
いや、この本が書かれた当時よりも増えているかもしれない。
助けなければならない貧困層は遠い果ての地、砂ぼこりの舞う発展途上国にいるだけではない。
すぐ横にもいる。
大変だなー。
ワーキングプアから抜け出せず路上生活を続ける都会の若者たち、
景気回復から取り残された地域社会で懸命に生きる中小商店主や農家、
子供たちのために睡眠時間を削って二つの仕事をこなす女性たち、
年金だけでは暮らしていけず空き缶拾いで日々を送るお年寄り夫婦、
そして、そんな貧乏に生まれたばっかりに、未来を狭められてしまう子供たち。
宮本みち子さんという方の言葉
「たとえば、人口の10%がほとんど這い上がれないような状態に沈殿した社会とはどうなるのか。
沈殿する怖さというのは一代で終わりません。
生まれ育った家庭環境がその後の有利不利を左右するのです。
沈殿層へと追いやられた当事者だけでなく、彼らの子どもから孫までもが、
世代を超えて貧困を受け継いでしまうのです。
そうするとこの社会はしっぺ返しを受けざるを得なくなる。
それは犯罪の増加につながることかもしれません」
経済評論家の内藤克人さんという方の言葉
「結局報われないと人々は働く意欲を持たなくなります。
勤労を美徳としてきた日本のこれまでの過去の特性が失われてしまうでしょう。
働く人々に報いているかどうかがその国の本質を物語ると思うのです」
「労働とは人間が担うものです。その人間労働の再生産ということがワーキングプアの層では途切れてしまいます。
いま、食べられればいいじゃないかという人がいますが、そうじゃない。
このままではこれからの社会を築くべき健全な労働力、優れた労働力を持ち得ない社会になってしまう。
社会全体が衰退してしまうという懸念をものすごく感じています。
若者の可能性を全部奪ってしまうわけです。
そうなると次の時代に向けて、社会の安定と安全、そしてその上に築き上げられるべき繁栄を保証できなくなります。
若い人が働き甲斐のある仕事にもっと容易につけるようにしないといけないのです。」
貧乏の子は貧乏。
貧乏の再生産。
これが最も怖いこと。
資本主義だから格差が生まれるのは仕方がないのか?
そうではない。社会保障は政府の責任。
どのように弱者を救済していくのか、
政策を決めて富めるものから貧しきものへ還元する仕組みをつくるのは、政府の仕事。
だけど、社会そのものが救える部分もあるかもしれない。
それはお金を介さない救済。
「頑張っても頑張っても苦しい。努力しているのに。どうして生活が良くならないんだろう」
本書が何度も何度も繰り返し訴えているこの言葉は滑稽に思えてしまう。
そこに需要が無いから。そこに競争力が無いから。社会に必要とされなくなったから、としか言いようがない。
少なくとも資本主義というステージの上では。
地方の中小企業も商店主も農家も、建設現場の労働者も、掃除している人も、みんな賃金が低いのは当たり前のこと。
そのずーっと続けてきて、何十年と改良も改善も加えずにやってきた仕事が、既に社会から用済みになっちゃったから。
もしくは大変低いコスト、例えば別の国の労働者が代わりにもっと競争力のある形でできるようになっちゃったから。
その国の人達の生活は、単純にもっとずっと過酷で厳しい。
仕事を奪われ辛い思いをしている人がいるなかで、どこかの誰かはそのおかげで多少生活が改善できている。
どうすればいいのか。
最低賃金を上げれば解決する問題だろうか。
外国をシャットアウトして、自国産業を保護すれば救われるのか?
しかし、稼ぎ頭の大企業が競争力を失って外貨を稼いでこれなくなったら資源や売るもののそもそも乏しい日本はどうなる?
大局でみて海外でモノを売って外貨を稼いでいる日本が、自国だけ閉ざして守ることが許されると思うだろうか。
恐ろしいのは、お金を稼ぐのは、誰かに雇ってもらうしかない、働き口を見つけるしかないというその発想。
仕事をして(使われて)、仕事をして(使われて)、寝る暇もなく仕事をして(使われて)、
その結果、体がボロボロになるまで追い詰められて、頭を働かせる時間も、
ふと立ち止まってやり方を試行錯誤してみる余裕すら奪われるまで墜ちなければならない状況。
奴隷の人生。
そうした人生を送らないで済むような、自立の制度が日本には必要なのだと本書は教えてくれる。
教育訓練給付金制度では無理。
そのお金すら払えないどん底を救済する方法。
果たしてそんな方法があるのだろうか。
だって、根本から教育し直さなきゃ変われない。
手取足取り稼ぎ方を教えてくれる人、資本主義の概念にはそぐわない、そんな人が必要。
でも、そんなの手遅れに思える。
そこまで救える余裕が政府にも無いんじゃないか。
やっぱり、そうなる前、子供の段階からちゃんと世界で戦える教育をしていく必要がある。
今の教育制度、社会保障。
一億総中流、右へ倣えのサラリーマンを生み出す旧態依然とした仕組みが通用しなくなっている世界で、
そこにメスを入れずして、この問題は解決できないと思う。

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