オリックス 「大風呂敷経営」の奈落 有森隆

痛烈なオリックスと、現会長宮内義彦の批判本である。
オリックスという会社名は誰でも聞いたことがあるに違いない。
イチローがかつてプレーしていたオリックス・バッファローズの親会社だ。
しかし、オリックスという会社が何をしているか知っている人はほとんどいない。
僕もリース会社というおぼろげな知識しかなかった。
大企業なのに何をやっているかわからない会社というのは気持ち悪いなと以前から気になっていて本書を手に取った。
本書は非常に企業とそれを取り巻く情勢を詳しく調べており、オリックスの実体を解明した良書である。
まるで自社で作成したかのような本だ。
著者の有森隆さんは相当経済に精通しているようである。どういう人なのだろうか。
経済ジャーナリスト。
1945年生まれ。早稲田卒業。30年間全国紙で経済記者を務める。
経済・産業界での豊富な人脈を生かし、経済事件などをテーマに精力的な取材・執筆活動を続けている。とのこと。
著書は多数で、「ヤクザ・カンパニー」、「日本の闇権力 人脈金脈の構図」、「起業家の銭地獄」、「黒い経済人」、「企業舎弟の掟」、「「規制改革」を利権にした男 宮内義彦」など刺激的なタイトルが並ぶ。
僕はオリックスはリース会社だと思っていた。
しかし大きな間違いだった。
オリックスは今や不動産事業と投資銀行事業の会社であった。
そして宮内義彦という人の会社であった。
宮内義彦氏は78歳の今でもなお会長の席についている。
この本が彼の引退勧告をしたのは全く効果が無かったようだ。
1980年から30年以上の長きにかけて社長、会長のポストに座っていることになる。
宮内氏は1950年というまだ海外留学がメジャーじゃなかった時代にワシントン大学でMBAを取得している。
日本人でワシントン大学に留学した第一号らしい。
そこで米国流を学ぶ米国かぶれになった。
また、日綿實業(現双日)入社後にもアメリカに再び亘り、リース業をマスターして帰ってきた。
オリックスは、宮内氏が米国から持ち帰ってきたリース手法により拡大した会社である。
バブル期に不動産融資からいち早く手を引いたことで一躍スターとなって出世した。
宮内氏のスタイルは一貫している。
・リースに、ノンリコースローン、投資銀行業務、規制緩和などなど米国流を日本にいち早く取り入れること
・規制改革に首を突っ込んで、緩和させたものからオリックスに新規参入させること
儲けるには自分でルール作りから参加してしまえばいいというわけだ。
改革利権という言葉が生まれるほど、宮内氏はその立場を利用して、先取りした規制緩和の情報を
自分の企業の舵取りに活かし、会社を拡大させた。
言うは易し、行うは難しである。
米国モデルを取り入れることも、財政界に人脈をめぐらせることも、
大胆な決断で事業を拡大することも宮内氏に実力があればこそできた業だろう。
94年に細川内閣の下で規制緩和小委員会の委員。
95年に村山内閣で行政改革委員会規制緩和小委員会の参与。
96年に橋本内閣で規制緩和委員会の座長、委員長。
99年、小渕内閣、森内閣のもと規制改革委員会の委員長。
01年、森内閣、小泉内閣で総合規制改革会議の議長
04年、小泉内閣の規制改革・民間開放推進会議の議長を歴任し、
規制改革の推進のトップとして規制撤廃に中枢から関与しまくりビジネスチャンスを自ら生み出した。
投資銀行業務では、ベンチャー企業にエクイティファイナンスを実施、株式公開で利益を得る手法を皮切りに
日本で始めてのノンリコースローン、
99年から債権回収会社の設立が規制緩和によって可能になるとサービサー事業に参入。
00年からはプリンシパル・インベストメント事業や債権流動化・証券流動化を採用、
03年からM&Aビジネスにも取り組むようになる。
あおぞら銀行を買収したのはこの例の一つ。
村上ファンドを設立し影で操っていたのも実は宮内氏だと本書は紹介している。
不動産ビジネスでも規制緩和を利用する。
アーバン・ニューディール政策という都市の大規模開発を可能にさせる案は、都市再生特別措置法として02年施行され、
地権者の3分の2の同意があれば事業を申請できるようになった。緊急整備地域に指定されれば、政府系金融機関からの金融支援も受けられた。
容積率(土地に対する延べ床面積)も緩和されたことで、オリックスは超高層ビル建設に参入した。
参画したのは汐留シオサイト、東京ツインパークス、インテージ秋葉原ビル、クロスタワー大阪ベイ、みなとみらいセンタービルなど。
09年リーマンショックと共に世界同時不況が発生。米国化しすぎていたオリックスは経営危機に陥る。
本書が執筆されたのはその時期だから、新自由主義思想による米国流を取り入れ、規制改革推進の中枢を担い、
さらには改革利権を貪ったことも合わせて宮内氏を糾弾するには格好の機会だった。
しかし、オリックスはその危機を脱出し、再び成長軌道に乗ったようである。
オリックス株価10年間推移 (日系会社情報より)
orix 株価推移
当期利益も2009年、10年の低迷から脱出し、再び14年は1868億円へと返り咲いている。
orix 損益計算書
不動産事業も回復基調。稼ぎがしらは自動車リース、事業投資、生命保険、海外のリース事業も盛況のようだ。
オリックスは宮内氏がいなければ成長できないのか?
どうももうそんなことはないようである。
むしろオリックスは総合商社と同じような気がする。
いっそのことカテゴリーをリースから変えたらどうだろうか。
ただの不動産会社になるという有森氏の予想は外れたわけだ。
今後、オリックスがどんな経営戦略を取っていくのか、楽しみである。
巻末オリックス10年間の要約財務データ

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

スポンサーリンク