銀翼のイカロス 池井戸潤

池井戸潤
1963年岐阜県生まれ。慶應義塾大学卒業。
1988年三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入行。
1995年、32歳で退職。
コンサルタント業、ビジネス書執筆、税理士・会計士向けソフトの監修をしていた。
1998年「果つる底なき」で第44回江戸川乱歩賞を受賞。
2010年「鉄の骨」で第31回吉川英治文学新人賞を受賞。
2011年「下町ロケット」で第145回直木賞受賞。
企業小説を得意とする今や誰もが知る人気作家。
僕が最初に読んだのは下町ロケット。
半沢直樹シリーズ
「オレたちバブル入行組」
「オレたち花のバブル組」
「ロスジェネの逆襲」
と続いて4作目が今回。
正直、銀行ものは書きつくしてしまったという感じ。
最初の二作は面白かった。
銀行の内部事情に興味をそそられ、ハラハラどきどきの展開や人間模様にページを繰る手が止まらなかった。
ロスジェネの逆襲もそれなりに楽しめた。
今作は二番煎じ感、人気だから続編だしました感が否めない。
新しさがない。
展開も予想できてつまらない。
もはや逆転劇が予定調和的。
とりたてて光るものが何もない。
惰性で飛ばし読み。
今回は、奥さんが一度も出なかった。
小説の中では、仕事を理解しない、恋も冷めたありがちなサラリーマンと専業主婦の夫婦関係が描かれていた。
ドラマでは視聴者受けを狙ってか、殊勝で可愛らしい上戸 彩になっていた。
そんな奥さんが一度もこの小説には登場しなかった。
場面展開はいつもどっかのバーやら居酒屋。同期とは一緒に酒を飲んでいるだけで人間模様もない。
これは池井戸潤始まって以来の駄作ではないだろうか。
あらすじ。
東京中央銀行の融資先である、帝国航空が破綻の危機。
頭取から直々に建て直しを指名されたのが営業第二部次長の半沢。
再建案が出たにも関わらず、政権交代、政治劇に巻き込まれる。
若くして国土交通大臣になった、進政党の看板娘がつくった私設タスクフォースに白紙撤回されちゃうのだ。
しかもタスクフォースは新再建案で債権放棄を要求してくる、というところでピンチ発生。
半沢は債権放棄に反対の稟議を上げるものの、銀行内の常務であり、旧東京第一銀行出身の紀本が呑むように取締役会で働きかけ、なかば強引に否決、自分の意見を通した。
合併前の東京第一銀行ではかつて審査も杜撰な不正融資を大量にしており、
合併後も隠し通していたが、タスクフォースの弁護士にそのことを知られ、揺さぶられていたからだった。
紀本はかつて、進政党重鎮の箕部に20億円を融資。20億円は箕部の親族が経営する不動産会社に流され、
地元に大量の土地を購入。さらに政治力を使って、その土地を空港用地として帝国航空に売却。
不動産会社も箕部もお腹ホクホクしたことがあった。
そんなことがあってなお帝国航空の危機すらも自分たちの政治に利用しようという、悪い政治家が今回の敵。
これをやっぱり暴いたのが半沢であり、その過程でかつての不正融資も明るみに、中野渡頭取は辞任を決意する。
そして、紀本、看板娘、箕部は倍返しにより完全敗北を喫する。
このストーリーをもったいぶって、373ページかけて書いたのが本作である。
半沢の宿敵黒崎を出すためか、はたまた書面を増やすためか、金融庁が東京中央銀行に乗り込んできて、帝国航空への融資一本に的を絞って、その妥当性につき調査する。
という事態が発生したのは痛快である。
帝国航空の業績に懸念があるなら、帝国航空に行って聞けばいい。
なぜに銀行から帝国航空のことを根掘り葉掘り聞くことになるのか。
銀行は資本関係もない他人の業績の全てに対し説明責任が生じるものなのか。
銀行は金を貸すだけ。貸した先を所有していないばかりか、株主ですらない。
銀行は信用力を評価し、貸した金を回収するところまでが仕事であって、それ以上の権利も義務もないのでは?
銀行がどこまで他人に口出しできるのか、口出しすべきなのか、非常になぞである。
そもそも、銀行が融資先の建て直しをするとかいう議論をしていることに、違和感がありすぎる。
もっとも回収できなかったら、担当者にバツがつくのは妥当だけど。
それは貸した瞬間に勝負が決まっているべきものなのではないかと、思うわけです。
まあ、この辺の銀行のありかたについての疑問は置いておいて、
まとめると、
今回、非常につまらなくなったのは、人間味が完全に失われて、事件構成を追うだけの読み物になったから。
そしてその構成すらどうでもいい感じのものだから。です。

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

スポンサーリンク