著者磯崎哲也氏は、長銀総合研究所出身で、その後ベンチャーの社外取締役を歴任している。
本書はベンチャー起業の入門書として良本。
なぜベンチャーなのか?
会社の始め方
事業計画の作り方
コーポレート・ガバナンス
この手の話は、ベンチャー起業を志さなくともどこかしらで学んだことがある。
ベンチャー企業特有であり、重要な課題はやっぱり資本政策であり、そこが中小企業と決定的に違うところであると僕は思う。
本書は資本政策のあれこれを一歩踏み込んで解説してくれている。
どういうところに気をつけなければならないか。
どういう策が取れるか。
本書を読むことで具体的なイメージをつかむことができた。
特に学んだこと。
企業価値は、未来を前提に語ること。
過去を前提に話すというテーブルにのっては行けない。
当然、ベンチャーは歴史が浅い。
過去の株価、現在の資産などを見て判断されたら当然高い会社に高い評価なんてつかない。
成長性と将来性を企業価値算出のベースにすることが重要。
これができてこそ、1億円、5億円、20億円、100億円と、段階的に評価額を上げてることが可能になり、
持ち分を許容範囲を超えて毀損することなく、十分な資金が調達できるようになる。
ストックオプションの留意点も参考になった。
ストックオプションはただ与えればよいわけではない。いつ与えるのかも重要。
「将来、ある一定の条件(株価)で株式を購入できる権利」であるストックオプションは、付与するタイミングによって、その購入価格が変わり、
最終的に手にできる現金にも大きく影響するから。
加えて、税務的な観点も重要になる。
税制適格であれば20%、非適格だと累進課税が課されてしまうという。
税制適格ストックオプションの要件
1.「時価≦行使価格」でないといけない
適当な価格で渡すことができないから、いつ渡すかがとても重要になる。
2.「無償」で発行されること。
3.「取締役、執行役、使用人である個人」に付与されること」
4.「契約により与えられた」ものであること
5.行使は2年後から10年後までの間に行うこと
6.行使価額は年間1200万円まで
7.譲渡禁止
株式持ち分の流出を防ぐために、上場まで行使できないようにしておくことも重要。
ベンチャー企業にとっては、誰に株主になってもらうか、そして株主の数をコントロール可能な範囲内にすることがとりわけ重要になる。
引っ越し、役員採用、増資、ストックオプション発行などで株主総会を開催しなければならないことが頻繁にあるから。
また、会社は上場だけがゴールとは限らない。買収される場合がある。そうした場合を想定した設計にしておくことが必要。
ストックオプションは10%以内にしておくのがいいらしい。
資本政策における留意点
当然、持分比率をいかに保つかが重要なのだが、ボーダーラインが2つある。
投資家が33.33%超を保つ場合
・定款の変更
・募集株式の事項の決定
・組織変更、合併・会社分割、株式交換、株式移転
・事業の譲渡や譲り受け
・資本金の額の減少
など特別決議について拒否権を使えるようになる。
このラインを超える場合、自分の都合で意思決定をしない株主を選択する必要性が高まる。
投資家が50%超を持つ場合
基本的にはこのライン超えると、投資家は普通決議に関して自分の思い通りにものごとを決めることができるようになる。
普通決議には取締役選任も含まれるので、もう創業者は絶対的に君臨することができなくなる。
投資家が66.66%以上を保つ場合
投資家が全てを意のままに決められるようになる。
ベンチャーキャピタルとの投資契約についても言及されている。
特に、「○年までに上場できない場合には会社と社長が連帯して株式を買い取らなければならない」という買取条項には注意せよ
とのこと。
これはリスクを冒してベンチャーをやっており、なおかつ持ち分も渡しているのに、返済義務のある借金をしたのと同じことだから、
絶対に受け入れてはならない。
ベンチャーキャピタルからの資金調達では、色んな条件のついた優先株式を発行する場合も多いらしい。
特に以下の4つについて特別な取り決めが設けられる可能性がある。
エクイティ・ファイナンスで優先株資に含まれがちな権利
・残余財産の分配を受ける権利
・会社による取得条項
・種類株主総会での決議事項
・取締役または監査役の先任権
こうした内容は投資契約でも定めることができる。優先株式として定める場合の注意点は登記されるため、第三者に対しても有効となること。
上場するには会計をしっかり監査法人に監査して貰う必要があるため、最短でも二年前から準備を始める必要がある。
上場を意識できるようなステージになるためにはある程度、会社も成長していなければならないので、
どんなに短くても創業から上場までは3、4年+数年間を考えて計画を立てることになる。
僕は資本政策や、上場の実務については全く無知であった。
この本のおかげで、ある程度具体的にイメージを掴むことができた。